コラム

脳と肥満の関係

私たちは「調理」という人だけが持つ技術により、様々な食材を華やかな食事に仕上げ、ありつくことができています。

調理によって創り出される料理は、食感だけでなく香りも豊かで魅力的ですね。

ただし、問題点もあります。

今日の先進諸国では調理が産業化されたことにより、前回お話しした「サクサク」が空前のスケールで出回っており、どうしても食べ過ぎてしまいます。

私たちは生まれながらサクサクに魅力を感じてしまいますが、これらを食べるための「スタートボタン」があっても、残念ながら「ストップボタン」のほうは進化していないのです。

「やめられない、とまらない」スナック菓子やフライドチキンなど、塩味と脂味、そしてグルタミン酸などの旨味のバランス、さらには匂いも、じつに魅力的に作られています。

そのうえ、サクサクが魅力的なのは味覚と嗅覚だけではなく聴覚までも刺激されるからです。その感覚が強ければ強いほど、長くその食感を楽しめる、つまり頭の中に響く音も含め、食べ物を選んでいると言えます。

肥満がもたらすもの

現代の私たちは、食べ過ぎてしまう事態に陥っています。飢えた環境に対応して進化した心と体が、全く別の環境にさらされているため、世界中に肥満がはびこっているのです。

かつては食物を手に入れるには、かなりの身体活動が必要でしたが、いまは真逆です。極めてカロリーを摂取しやすい一方で、カロリーを消費する機会が著しく少ないのです。

肥満は、心臓病や糖尿病、関節の摩耗など、身体の病を引き起こします。そればかりではありません。あまり知られていないのですが、「脳を侵す」リスクがとても高いのです。

脳は加齢に伴い徐々に小さくなるものですが、60歳ごろを境に、急激に減少へと向かいます。

中年期であってもBMI(肥満度を表す指数)の増加に伴い脳全体の容積が減少し、特に前頭葉などに異常が見られるようになります。高年齢においては言語、記憶、聴覚に関わる側頭葉の萎縮が目立ちます。

高齢者の肥満型と痩せ型を比較した5年にわたる調査の結果、肥満者の脳は痩身者より前頭葉、海馬、帯状回前部、視床が萎縮していることを突き止めました。

どうして肥満になると、加齢に伴う脳萎縮の進行が、うんと早まってしまうのでしょうか。

糖尿病や前糖尿病状態にあると、脳血管に障害が生じるため、血流が減少し、脳組織の損傷に直結します。

さらにアルツハイマー病の進行過程では、神経毒性物質が生成されるのですが、これを取り除くスピードも落ちてしまいます。

運動、つまり身体活動によって循環器の健康が促進されれば、もちろん認知症進行のリスクも軽減されますが、肥満者はどうしても体を動かす量が少ないのです。この両方が組み合わさり、高齢の肥満者における認知症の進行は、がぜん早まってしまいます。

しかし裏を返せば、少なくとも食事と運動によって、かなり容易に生涯の健康づくりをすることができる、ということです。体の健康だけでなく、脳の健康まで保ってくれるのです。

認知機能アップ

多くの食物に含まれるグルコース(ブドウ糖)が記憶力に効くと証明されています。グルコースが脳の主要エネルギー源であることも関係があるでしょうが、日常的な出来事や覚えた情報を整理整頓する脳の海馬が激しく活性化するので記憶力のアップにつながるのです。また、血管脳関門を通らないフルクトース(果糖)ですが、これも記憶を向上させる働きがあります。ただ、制限なく摂取してしまえば肥満につながるので気をつけてくださいね。そして、記憶を向上させる食物成分といえば、フラボノイドです。

加齢に伴う記憶障害の進行を遅らせ、認知能力、その他の機能も向上させます。

フラボノイドの記憶向上の仕組みは十分に解明されていないものの、結果としてシナプス(神経細胞の末端)形成を促進し心臓血管の健康を増進、抗炎症活性、抗酸化活性によってニューロン(脳の神経細胞)を保護する、といった作用が複合的に影響した結果、記憶力と認知能力の向上につながると考えられています。

フラボノイドは、長期にわたって記憶を健全に保つ働きがあると考えられ、人生を通じた様々な体験の思い出を記憶に留められるかに関わっています。

果物や野菜はフラボノイドの宝庫で、生活習慣病を予防する健康効果、更にはダイエットにも役立つなどとても魅力的な成分が豊富です。

特に多く含まれているのが、果物や野菜の皮の部分なので、皮ごと食べられるイチゴやブルーベリーなどのベリー系の果物などは積極的に取り入れたいですね。

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