コラム

人は脳で食べてきた!

以前に比べると、コロナ禍で外食の機会がめっきり減り、いよいよ自宅での料理にも行き詰まりを感じます。正直、食事の楽しさが減っていると感じるのは私だけでしょうか。

そこでふと目に入った「我々はなぜサクサク パリパリに魅せられるのか?」の言葉に惹かれ、手にしていたのが『美食のサピエンス史』という書籍。

日本に馴染みのあるサクサクした食べ物といえば、天ぷら、トンカツ、唐揚げ、菓子類でいえば、おせんべいといったところでしょうか。これらのサクサクは、糖とたんぱく質が熱に反応して茶褐色の物質を作り、香味成分の生成も起こす『メイラード反応』によるものです。

メイラード反応が進んでいくとメラノイジンという物質が生成されていきます。

メラノイジンには種類がいろいろあり、なかには体に良いものも、悪いものもあります。発酵食品や黒ビール、10時間ほどじっくりと発酵させ、焼き上げた芳ばしい食パンの耳はメラノイジンがとても豊富で、その抗酸化力で、病気や老化の原因といえる活性酸素を無毒化したり、腸内のビフィズス菌の活性を促したりします。

色が濃い赤味噌なども、熟成によりメイラード反応が進んだものです。ほかにも、肉汁に砂糖と醤油をいれ、熱を加えると香ばしさが増し美味しいソースが出来上がります。

原理は知らずとも、私たちは日常的にメイラード反応を利用して料理を作っているんですね。

サクサクの源

では、自然界の食べ物に着目すると、サクサクの源は一体何でしょうか。

じつはそれ、昆虫なんですよ。ゲゲッと思いますが、日本にも蜂の子を醤油と砂糖で炒ったものや、イナゴの佃煮などありますね。

昆虫は、動物性食物の中で最もサクサクした食感で、キチンという多糖類でできた硬い外骨格に身を包んでいます。脂肪とタンパク質を豊富に含んでいるため、食事の脇役にもなれば主役にもなるのです。

外骨格の発達した成虫を食べるときは、炙るか、焼くか、揚げるかしてサクサクの状態にします。世界中の20億人がいまも昆虫を食していて、日本でも昆虫専門のレストランが結構あるのに驚きました。

約500万年前には霊長類の共通祖先の大部分が昆虫を食料にしていたそうです。人も霊長類なのでサクサクは大昔から魅力に感じてきました。今の私たち人間がサクサクのフライドチキンやポテトチップスを好むのは、ご先祖様の虫好き……を受け継いだのかもしれませんね。

シャキシャキの源

シャキシャキの源、それは植物です。ちょっと、ほっとしますね(笑)。

シャキシャキのイメージは新鮮さ。でも、新鮮な肉、新鮮な魚といってもシャキシャキしていると言いません。このシャキシャキとした歯ごたえは、野菜が水分を含んでいる証しです。

道端で売っている採れたてのトウモロコシとスーパーで売っているそれでは随分違います。鮮度が落ちれば落ちるほど野菜の水分量と栄養は減っていき、腐敗菌に汚染されるとシャキシャキ感は消滅し、ヌルヌルになってしまいます。

技術の発達によってビニール袋に入れられたサラダなど、じつは新鮮ではないのに、あたかも新鮮であるかのように売られています。

新鮮さ風を演出するため、味を犠牲にしてでもシャキシャキをアピール、そのために薬品を使う、あるいは亜種・変種へと改良が行われてきました。

新鮮な生野菜が今日のように見られるようなことは、人類の歴史上1度もありませんでした。地産地消が基本であり、野菜の採れる季節も限られていたからです。

今は冷却技術や加工技術も向上、そして輸送システムの発達によって年中食べることができます。

旬である8月に採れたピーマンも、温室で育てた冬のピーマンも見た目は変わりません。旬でなくてもあたかも新鮮であるように見えるのが今の野菜です。

でも、これは仕方のないことかもしれません。人はプロセスよりも最終形を見定めるように進化してきました。

新鮮なのか、食べても大丈夫か、毒ではないか、味は口に合うだろうか?

もはや見た目で見分けがつきませんが、判断する能力は生存のために必要です。本来、食物がどのようにして出来上がったのかを理解して、お買い物の際は、手に取った食品をしっかり見定めることが大切といえるでしょう。

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