5月の端午の節供が終わると梅雨の季節です。じゅくじゅく続く長雨で、さまざまな体調不良が起こりやすい時季です。
漢方では、湿気が原因で体に余分な水分が溜まり、体がむくむ、重だるい、頭が重い・痛い、めまいがする、食欲がわかない、胃が重い、関節が動かしにくいなどいろいろな症状が起きることを【湿邪】と呼び、湿気を病因の一つと考えられています。
今回は、そんな症状に役立つ食材とレシピをご紹介いたします。
梅の効用
梅雨の字が表すようにこの時季熟するのが青梅です。
中国原産の梅が日本に入ってきたのは古く、コレラに効く、疲労効果、美容効果、長寿の薬などと言い伝えられてきました。
梅の主成分であるクエン酸は、持ち味の爽やかさで食欲を増進させ、その酸味によって唾液や胃液、その他の消化酵素の分泌を高めて消化吸収を助け、さらに胃腸のぜん動運動を活発にして便通をよくします。
私たちが食物として摂取した糖質や脂質などのエネルギー源が体内で消化され、いくつもの酸に変化しながらエネルギーとして放出させる回路のことを「クエン酸サイクル」といいます。
この循環がスムーズにいかないと、体内に乳酸が生じ、疲労しやすくなったり、肩こりや筋肉痛の原因となります。
この働きを促進するための潤滑油となるのがクエン酸で、疲労回復に役立つとともに、防腐、殺菌作用もあるといわれます。
梅干し
梅は奈良時代に薬用として(烏梅:ウバイ)の形で中国から渡来し、熱さまし、咳止め、痰切り、吐き気止め、回虫駆除などに用いられました。
有機酸が多いため梅干し、梅びしお、梅酒、梅ジャムなどに加工されることが多かったです。
とくに梅干しは梅肉エキスとともに、江戸時代には常備食品として家庭にも根付いていました。
私が子どものころも家の食卓にはいつでも梅干しがおかれていて、朝のお茶うけやご飯のお供に食べていましたよ。
海外旅行には「梅肉エキス」を携帯しよう
梅肉エキスは、梅の成分のかたまりのようなもので、梅干の何十倍もの効力があります。
材料は梅だけ。塩分を気にされる方でも安心して使用できるので、海外旅行での水当たり、食当たりを防ぐために「梅肉エキス」を小ビンに入れて携帯すれば安心です。
耳かき一杯分の梅肉エキスが強力な殺菌力で体を守ってくれるので安心して旅行を楽しむことができます。
一年に一度しか巡ってこないこの時季に自家製の〝特効薬〟を作っておきましょう。
梅肉エキス
①青梅2kgをよく洗って水気をきる。梅の縦に入っている筋にそって、種に突き当たるまで、ぐるりとナイフを入れる。まな板の上にのせ鍋ぶたでゴリゴリこすり、種が果肉から離れやすいようにして種だけを取りだす。
②①の梅を陶器のおろし金でおろす。ミキサーを使う場合は、梅を四つ割にしてミキサーが回りやすいように少し水を加えます。
③ホーロー鍋か土鍋の上にザルを置き、さらし布を広げて②ですりつぶした梅をあけて汁をこしながら入れる。さらに布の端をまとめ、汁を十分に絞る
④③を弱火にかけ、木杓子でゆっくりとかき混ぜながら、黒くトロトロになるまで、気長に煮詰めていきます。
⑤熱湯消毒した容器に、粗熱をとった④を入れ、ラップで密封し、その上からぴっちりフタをして保存します。
薬膳風 梅のピクルス
②酢600cc、砂糖300〜400g、香辛料((クローブ3個、八角2片、ニンニク1片、唐辛子1~2本)を鍋に入れ、ひと煮立ちさせて、冷まします。
③熱湯消毒した容器に、水けを拭いた①の青梅を入れ、消毒したガーゼの上から③の液を注ぎます。
④フタをきっちり閉めて完成。
いわしの梅煮
②梅干し2〜3個は竹串で数ヶ所つついて穴を開ける。生姜1片は薄切り。
③鍋にみりん1/4、酒1/4、昆布水1と1/2カップ、醤油大さじ2、砂糖大さじ1を入れて煮立ってきたら、いわしと梅、生姜を入れ、落し蓋をして煮て完成。
梅納豆のレンコン焼き
②レンコン200gは皮を剥いてすりおろす。
③長ねぎ1/2本は白い部分を7㎝残してみじん切りにする。残りの白い部分は白髪ねぎにしておく。
④梅干とねぎのみじん切り、おろしレンコン、納豆をよく混ぜ合わせる。
⑤フライパンにゴマ油を引き、④をスプーンですくって円形にし、蓋をして弱火で2分焼く。裏返して表面にハケで醤油を塗る。皿に盛って白髪ねぎを盛りつければ完成。
郷土料理の梅レシピ4選
①青梅の塩漬けしたものを、赤じその葉で一つずつ包む。
②容器に砂糖を入れ、その上に梅を並べ入れ、さらにその上に砂糖を入れる。これを繰り返して漬ける。半年くらいおいて食べる。
*しそと梅の甘酸っぱい香りと味がおいしく、お茶請けに喜ばれる。
①梅を洗い、水切りしたものをまな板の上にのせ、すりこぎでたたいて種を取り、細かくきざむ。
②赤じそを梅の半量用意し、塩でもみ、汁をしぼってアクを出し、細かくきざむ。梅干しに漬け込んでおいたしその葉も少し取り出し、細かく切りきざむ。
③塩を梅の一割ほど用意し、少々の砂糖も加え、合わせて重石をかけておく。
④2、3日で梅は完全に染まり、食べられるようになる。
※半夏生まえの固くてカリカリした梅をもぎとり、そのもぎたての実を使う。すぐにやわらかくなるので、多くはつくらない。
①はこべは茎ごと摘んできて、赤じそといっしょに塩でもみ、いったん絞ってから梅漬けに混ぜ込む。
②梅を土用干しにするときに、梅の上にしそとはこべも広げて干す。
③干しあがったら梅にかぶせるようにして、かめにもどす。
梅干しを漬けるときに、赤じその葉とはこべの葉をいっしょにもんで漬け込む。
※赤じそと、はこべの混ぜぐあいは手加減だが、だいたいしその1~2割入れる。はこべを入れると梅の酸味がよく出るので色もよく出るといわれている。
梅雨が明けると灼熱の太陽がふりそそぐ真夏到来です。冷たい飲み物、食べ物の摂りすぎによる胃腸障害を守るのが、梅干しや梅肉エキスです。
ご紹介した梅レシピを是非ご活用ください。
「東京薬膳研究所」代表。本場中国で薬膳を学び、帰国後は日本の気候風土に合った薬膳理論を研究。和食薬膳・食養研究の第一人者である。『食は薬なり』を全国へ広めるため、執筆活動のかたわら各地で講演を行い活躍中。著書に『決定版 和の薬膳食材手帖』『旬を食べる和食薬膳のすすめ』(すべて家の光協会)などがある。