コラム

食の相乗効果・フードシナジーを最大限に活かす

昨年全国放送されたカズレーザーさんのテレビ番組で、ザクロのすごさがとりあげられたのをご存じの方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。

番組ではザクロに含まれる特定の成分を強調し、「ほら、この成分が入っているザクロってすごいんですよ」という内容で専門家も太鼓判を押していました。

たしかに若返りの果実と呼ばれるザクロは、美と健康のための理想的な果物です。

しかし、一つの成分にだけ着目し、それだけを摂ればすべて解決するというようなことは残念ながら期待できません。「ビタミン○○で美肌に!」 「〜を食べると認知症に良い!」 といった謳い文句で作られている番組や記事をよく見かけますが、このように単一のシンプルな要素に着目して結論づけてしまう考え方を「還元主義」といいます。

日本のメディアでは、還元主義的なものがとても多いです。影響を受けすぎてしまうと、「○○を毎日とっているので、がんにはならないから大丈夫」といった、残念な発想に陥ってしまうリスクがあります。

食の相乗効果(フードシナジー)

一方、これと正反対の考え方が「食の相乗効果・フードシナジー」という概念です。

一つの成分しか見ない還元主義に対して、「食の相乗効果」とは、食べ物の組み合わせや、食べるタイミング、食に関する姿勢を含む「食生活に関わるすべての要素の相乗効果」が大事という考え方です。

今回は、わたしたちにとって馴染みのある野菜・果物の力を解説していきます。ついつい陥りがちな還元主義的な考え方を捨て去り、多種類の野菜や果物をどのように確保すれば良いかについてもご案内します。

もちろん一つの食べ物や栄養素の役割について知識を得ることは大切なのですが、みなさまには、様々な食材を幅広く食べることをはじめ、毎日の食事を俯瞰する目も養っていただけたらと思っています。

野菜と果物が、病気を予防し死亡率を下げる

野菜と果物には健康になるための利点がたくさんあります。

まず、野菜や果物を摂取している人ほど、死亡率が低くなる傾向が認められています。1990年代から続く大規模な研究において、野菜と果物の摂取量がそれ ぞれ多いグループは、少ないグループ にくらべて、死亡リスクが低いことが 2022年に発表されました。

欧米の研究によると、野菜と果物は約80g食べるごとに、5〜6%死亡率が低下します。1日あたり、野菜だけ で385g、果物だけで400gくらいまでは、食べる量が増えるにつれ、死亡率も低くなる傾向が見られます。それ以上に摂取量を増やしても死亡率は変化しません。

果物については、摂取量が多い人ほど脳卒中や循環器疾患など様々な病気による死亡率が低いようです。また、豆の摂取が多い人ほど、循環器疾患などによる死亡率が低いことも認められています。

そして、血圧を下げたり、加齢に伴って起こる白内障や黄斑変性などの目の病気の予防にもなり、消化器官の働きを助けて便秘を防ぐ効果も示唆されています。

多種多様な食材で病気知らずの健康体へ野菜と果物が良いのは、食物繊維やカリウム、ビタミンなど豊富な栄養素が含まれているからです。

栄養学的にも、単一の食品ですべての栄養素がまかなえることはありません。多種多様なものを食べることで、病気のリスクを避けられるのです。

色とりどりの野菜や果物を!

多様性といっても、どのように食べたらいいのか迷ってしまうことも多いと思います。そのときは「色とりどりの野菜を組み合わせて食べる」ことを心がけましょう。

野菜や果物は、五大栄養素と呼ばれる5つの代表的な栄養素 (炭水化物・たんぱく質・脂質・ビタミン・ミネラル)とは別に、植物として特徴的な成分があります。「ファイトケミカル」と呼ばれるものです。これは植物由来の抗酸化成分。野菜や果物に豊富に含まれ、その価値は、私たちの想像以上です。

また、色をベースに食事の内容を決めることは、良い食生活を送るための目安になります。実際、行動科学の研究によると、色とりどりの食べ物を並べることで、食欲が増す傾向があるようです。

ただし、野菜や果物であっても、エネルギー摂取量過多(いわゆる「カロリー過多」)となるほど食べるのは良くないので、そのあたりのバランスは気つけましょう。

市販の野菜ジュースは食事の代わりになる?

よく話題にあがるのは、「市販の 100 %の野菜ジュースや果物ジュースを飲んでいれば、野菜や果物を食べなくても良いのでは?」ということですね。手っ取り早く、手軽に必要な栄養素だけをとれるように感じるジュース類は、野菜と果物を食べることと同じくらいの効果があるのでしょうか?

まず、野菜ジュースと疾患の関係に関しては、明確なエビデンスはありません。100%の野菜ジュースと、糖尿病の発症率を調べた日本の研究においては、関連性は見られませんでした。

市販の果物ジュースについては、海外でも様々な研究が行われています。
100 %の果物ジュースをよく飲んでいる人ほど糖尿病の発症率が高いという報告もありますが、まだ明確な関連があるとはいえないようです。 実際に糖を代謝する機能が落ちる影響も示されていません。
また、脳卒中 については1日1杯未満(100〜200ml )くらいなら、100 %ジュースはリスクが低くなることも報告されています。現在は、良いか否かはっきりしていません。

今後、死亡率や認知症、生活環境全般との関係を検証していく段階です。食事の代わりではなく、糖分の多いソフトドリンクを飲むよりは、野菜ジュースや果物ジュースを飲んだりするほうが、まだマシ、という程度に考えるのが良いでしょう。

糖尿病のリスクを下げる果物とは

米国の研究からバナナやマスクメロンは、摂取量が多いと糖尿病のリスクが高いと報告されています。ただ、口にする菓子類などを総合して糖分オーバーになっている場合も多い点には注意が必要です。

一方で、イチゴやブルーベリーなどのベリー類や、グレープやレーズン、 りんごを食べる人ほど、リスクは低いようです。

厚生労働省と農林水産省による「食事バランスガイド」では、1日に果物約200gの摂取を推奨しています。
ところが日本人は半分以下の 96gしか食べていません。200gというと、みかん2個、梨やりんご 1 個、ブドウ1房など が当てはまります。これらを目安として、多種類で摂ることをおすすめします。

疾患との関係を考えると、エビデンスが弱い野菜ジュースや果物ジュースに頼るよりも、野菜や果物そのものを、色彩豊かに食する方が健康にははるかに良いです。

ご近所で野菜や果物を分け合い冷凍保存!

毎日の生活のなかで種類豊富な野菜や果物を取りそろえるのは、昔は大家族の家庭が多く容易でしたが、最近は 核家族化の影響でなかなか大変ですね。

そこで、ご提案。

野菜や果物を仲の良いご近所で 1 種類ずつ買い、分け合うことを習慣にしてみてはいかがでしょうか?ご近所同士の交流にもなります し、一度にたくさんの食材が手に入るので一石二鳥ですね。 さあ!みなさまも今日からご近所で野菜・果物の交換をしましょう。

それから、ご近所で共有してほしい のが、果物を冷凍保存しておくこと。なんと、冷凍することで栄養価が高まるというから驚き!イギリスにあるチェスター大学で行われた研究では、さまざまな果物で生と冷凍の栄養価を比較してみると、冷凍したフルーツのほうが抗酸化物質の含有量が多くなるという結果が出たのです。大きな果物も最初から切って冷凍保存しておけば、便利ですね。

習慣づくりは最初が肝心

何事もそうですが、習慣にするのって難しいですよね〜。私も 1 日 3 局の ネット将棋以外は習慣にできていることはひとつもなく、妻にも愛想を尽かされ息苦しい毎日が続きます。

生活の中で野菜や果物を豊富に摂ったり、果物の冷凍保存を習慣にするためにも、最初が肝心。
大人になってからの習慣づくりを追跡したイギリスの研究があります。最初のころに何度 も繰り返すと、しだいに「何も考えずに 自動的に行えるようになる」レベルへと上がっていきます。習慣づくりは最初に気合を入れるのが良いようです。

季節ごとに多くの種類の食材を摂る

野菜や果物の話になると、たとえば「トマトはリコピン、ベリー類はアントシアニン、大豆はイソフラボン」などと、どうしても単一の栄養や成分について着目する還元主義的な話になってしまいがちです。

単一の食材や成分にばかり着目するのではなく、多くの種類の食材を摂ることがおすすめです。成分同士が相互に働き合い、単一で摂るよりも数十倍もの相乗効果を発揮するからです。食材は多ければ多いほど、還元主義もフードシナジーに結びつくのです。

ぜひ、野菜や果物を育ててみたり、野菜をおいしく食べられる味付けを、料理を通じて学んだりしながら、季節のものを楽しむ気持ちで様々な種類を食べてみましょう。

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