新型コロナウイルスが5類に引き下げられ、賑やかで、そして晴れやかなお正月がもどってきましたね。
実家への帰省も、これまで自粛していた方が多かったのではないでしょうか。
おせち料理に入る煮物類は、同じ材料を使って調味料の割合を同じにしても、大きいお鍋でつくるとなぜだか一段と美味しく感じます。
今回は、煮物料理やおせち料理に入る筑前煮などには欠かせない『ゴボウ』のお話しです。
日本が誇る野菜
関西では数の子、田作りと並び、たたきゴボウが祝い肴三種です。
たたきゴボウは、ゴボウを叩いて開くことから『開運』の意味が込められているといわれています。
またゴボウは地中に根を張り、力強く成長することから『延命長寿』の象徴と考えられ、土地に根付く姿に重ねて「家族が土地に根付いて安泰に暮らせますように」との願いも込められているとか。
ゴボウは煮しめの脇役としても使われますが、薬効に優れていることから健康のイメージも兼ねた、おせちの重要な食材のひとつです。
ゴボウを食用とするのは日本と朝鮮半島の一部だけですが、古くから中国やヨーロッパでは薬として用いられてきました。
薬効の高さを考えると、並みいる野菜のなかでもまさに『ごぼう抜き』の存在といえるでしょう。
利尿・整腸・咳止め・強壮・・・多様な薬効をもつゴボウは、種を蒔いてから半年以上をかけて、ゆっくりと土のなかで成長を続けます。
初夏には早くも秋蒔きの新ゴボウが出回りますが、もっとも美味しくなるのは晩秋から初冬にかけて収穫をしたもの。
次々と新顔の野菜が登場するなかで、ゴボウこそ日本が誇る固有の野菜といってもいいでしょう。
原産地は中国ですが、ゴボウの根っこを食用とするのは世界広しといえども日本と朝鮮半島だけだからです。
日本には平安時代に伝わり、当時は薬草として扱われ、食用になったのは江戸時代から明治にかけてとされます。
根
五味では苦味に属し、性質は体を冷やす寒性。
牛蒡根(ごぼうね)と呼ばれ、利尿・鎮咳・解熱・解毒・排膿作用などがあります。
水溶性と不溶性、両方の食物繊維を含み、整腸作用に優れます。また、コレステロール値を低下させ、血液を浄化する働きも認められています。
さらに、腎機能を高めるイヌリンや性ホルモンの分泌に役立つアルギニンも含み、精力増強に役立ちます。
葉・茎
根と同様に苦味・寒性の性質で
消炎・止血・抗菌作用があり、葉5~10gをコップ一杯の水で煎じ、冷ましたものでうがいをすると、扁桃炎や口内炎、歯茎の腫れなどに有効です。
できものや腫れ物、虫刺されやあせもなどの皮膚炎には、葉をついて出た汁を幹部に塗り、入浴剤として利用すると効果があります。
種
根や葉とは異なり、五味では辛味、性質は平性です。
種は漢方で、「悪実(あくじつ)」「牛蒡子(ごぼうし)」「大力士(だいりきし)」といい、解熱や解毒、利尿、排膿作用に効くとして用いられています。
種を煎じた汁は、乳腺炎や中耳炎、できものなどによいとされます。
日本ではニキビや湿疹などの皮膚疾患の患部に、牛蒡の根や葉のつき汁を塗ったり、種を煎じて飲む民間療法が伝えられています。
日本はこれほどの薬効を持つゴボウを、
特別な薬ではなく食べものとして普段の食卓にとり入れてきたことを誇るべきでしょう。
便秘を解消
ゴボウのシャキシャキとした食感は、水溶性と不溶性の両タイプの食物繊維が生みだしています。
水溶性の食物繊維は便の量を増やし、腸のぜん動運動を高め、乳酸菌の活動を活発にして便秘の解消に役立ち、不溶性は、肉や米などの数十倍の水分を吸収する性質があるため、腸内に余分な水が停滞することで起きる下痢や軟便を改善します。
つまり、ゴボウは便秘と下痢の両方に効果をもたらす整腸作用の高い野菜というわけです。
ささがきにすると薬効が高まる
『大根頭にごぼう尻』ということわざがあるように、大根は頭の太いところ、ゴボウがしっぽのほうが柔らかくて美味しいとされます。
煮物にはできるだけしっぽに近い部分を使い、頭のほうは炒め物や揚げ物に利用すると良いでしょう。
薬効成分のリグニンは切り口に発生し、時間がたつほど増えるため、切り口の多い『ささがき』にするのが有効です。
ささがきゴボウをたっぷりと入れた豚汁や炊き込みご飯は、冬の食卓の定番ではないでしょうか。
旬の根菜をいろいろ組み合わせていただきましょう。
さっぱりといただくのであれば、梅肉とマヨネーズを混ぜたオーロラソースで和えるのもおすすめです。
ソースには温性のカラシを少々加えて、ゴボウの寒性を和らげてください。
ゴボウのアク止め
ゴボウはアクが強く、空気に触れるとたちまち黒く変色します。
切ったらすぐに水にさらしましょう。茹でるときは酢を少量たらすとアク止めにもなり、きれいな色に仕上がります。
気をつけたいのは、決して皮をこそげ落とさないこと。皮とのあいだには、うま味と香り、そして薬効成分が豊富に含まれているためです。皮はたわしで軽くこすり、土を落とす程度にしておきましょう。
火がとおりやすいので、加熱はシャキシャキ感が残る程度に短時間で仕上げ、ゴボウ特有の香りや歯触りを存分に味わってください。
たたきごぼう
①ゴボウ1本はタワシで汚れを落とし、鍋に入る長さに切る。
②酢少々を入れた熱湯で火が通るまでゴボウを茹でる。
③すり鉢で白ゴマ大さじ2をすり、砂糖大さじ3、酢大さじ1/2、しょうゆ大さじ2、辛味味噌小さじ1を加えてさらにする。
④②にゴボウを加えて和えれば完成。
寒性のゴボウは、体熱を冷ます作用が強いのが特徴です。
ゴマと酢、砂糖、しょうゆで和えた『たたきゴボウ』は、陽体質にピッタリの陰料理。
体内の余分な熱を除いて、熱性の炎症や腫れものなどを改善する効果が得られます。
ただ胃腸を冷やしすぎないよう、食べ過ぎには注意が必要です。
苦味の相克にあたる辛味・温性の唐辛子を添えるのもいいでしょう。
ゴボウの定番料理として、きんぴらごぼうに鷹の爪が不可欠なのも同じ理由です。
陽体質の人はこのままでも十分ですが、今回は青唐辛子を練り込んだ辛味味噌も加えました。
冷え防止効果がさらに高まります。
「東京薬膳研究所」代表。本場中国で薬膳を学び、帰国後は日本の気候風土に合った薬膳理論を研究。和食薬膳・食養研究の第一人者である。『食は薬なり』を全国へ広めるため、執筆活動のかたわら各地で講演を行い活躍中。著書に『決定版 和の薬膳食材手帖』『旬を食べる和食薬膳のすすめ』(すべて家の光協会)などがある。