去年、夏が終わり9月半ばになってふと、あの猛暑の中でいつもの夏より元気だったことに気づきました。もちろん、粒のサプリメントなどは摂っていません。そこでなにが良かったのかと振り返ってみると、麦ご飯とお味噌汁がよかったのではないかとの結論に達したのです。
日本では未だに高たんぱく、高脂肪の食生活が続いており、西洋的な食生活に伴って病気の種類も乳ガンや大腸ガンなどを患う人が多くなっていますが、昭和56年の新聞に「毎日、味噌汁を飲んでいる人は胃ガンで死ににくい」という記事が載り、当時大反響を呼びました。
国立ガンセンター研究所で疫学部長を務めた平山雄博士の研究を紹介したもので、「高血圧を心配して味噌汁をやたらに敬遠する昨今の風潮は、どうやら健康上逆効果」と、全国26万5千人を対象に、13年間にわたる追跡調査の結果をふまえ、『味噌汁礼賛』を謳ったのです。
じつは、江戸時代に著された本草書である『本朝食鑑』には「腹中をくつろげ、血を生かして百薬の毒を解す」とあり、味噌は健康をむしばむさまざまな毒素の解消に役立つことが昔から知られていました。味噌の中の微生物と大豆センイが合体し、腸内の腐敗菌や有害物をからめとり、体外に押し出してくれるのです。また、味噌にはジピコリン酸という物質が含まれていて、放射性物質を吸着して排出する作用があります。まさに、現代の毒消しと呼ぶのにふさわしい神秘的な食べ物、それが【味噌】です。
味噌は調理や薬餌にとどまらず、多種多様な用途をもっています。
そのひとつが外用。戦国時代の武士たちは、打ち身や肩凝りなどに厚手の和紙に味噌をひきのばしたものを用いていますが、本朝食鑑には「患部に味噌を敷いてもぐさ灸をすえると、よく散らしよく温めて痛みをおさめる」と、味噌灸の記載もあります。変わったところでは火災除けです。失火の際など、倉庫の戸窓に味噌を塗り、火の手の侵入を防いだとされています。
ご馳走とは毎日食べて飽きないものの事だと言いますが、私たちにとってのご馳走は、まさにご飯とお味噌汁ではないかと思います。それを体はもっとも喜ぶのです。
「東京薬膳研究所」代表。本場中国で薬膳を学び、帰国後は日本の気候風土に合った薬膳理論を研究。和食薬膳・食養研究の第一人者である。『食は薬なり』を全国へ広めるため、執筆活動のかたわら各地で講演を行い活躍中。著書に『決定版 和の薬膳食材手帖』『旬を食べる和食薬膳のすすめ』(すべて家の光協会)などがある。