みなさんは、心身の老化を決めるある物質をご存じでしょうか?
90歳を過ぎても焼肉を食べ、カラオケを楽しみ、健康そのものの高齢者、40代にもかかわらず見た目が70歳以上の男性、更年期を過ぎて急激な血圧上昇や骨粗しょう症に悩む女性など、いずれもある物質の数値を調べると、「なるほど」と納得できる結果となります。
その物質とは、「ホルモン」です。
ホルモンは血液中に分泌される情報伝達物質で、脳からの指令を伝えるメッセンジャー。現在見つかっているだけでも100種類以上が存在し、消化吸収、呼吸、免疫、代謝など、生きていくうえで必要な機能が滞りなく働くよう、脳の指令を全身に届けています。
これまで「加齢」とひとことで片づけられていたさまざまな症状が、ホルモンの分泌量と密接に関連していることがわかってきました。
足りないホルモンをこれ以上減らさない、できれば今よりも増やすことで健康年齢をアップさせることができるのです。
体調を左右するホルモン分泌量の変化
ホルモンは24時間、365日、私たちの体内で分泌され、体のコントロールを行っています。
起床の数時間前に「コルチゾール」が分泌されることで目が覚め、「セロトニン」が覚醒を促します。
食事をすれば「インスリン」が血糖値をコントロールして、仕事や勉強の際には「アドレナリン」が働きます。
トレーニングをすれば「成長ホルモン」が筋肉の生成を助け、「テストステロン」が脂肪分解の手助けをします。
ベッドに入った際の寝つきをよくするのは「メラトニン」の力、そして眠っている間には「成長ホルモン」が新陳代謝を促してくれます。
代表的な1日のホルモンサイクルをお話ししましたが、ほかにも100種類以上のホルモンが、みなそれぞれの働きをしています。
ちなみに、ホルモンはわずかな量で効果を発揮するという特徴があります。50mプールの水に対してスプーン1杯の量でも体の機能に大きな変化をもたらすと言われ、それだけにホルモン量の変化は体調に大きく関与するのです。
ホルモン分泌量の変化はなぜ起きる?
ホルモンの分泌量は、生活環境やライフスタイルに左右されます。食事の量や質、睡眠時間、運動量、日々のストレスなどに過敏に反応します。
規則正しい生活を続けていれば一生ホルモンに影響は出ないのかといえば、残念ながらそうではありません。「加齢」によってホルモンの分泌量が変化するのは避けられません。
一生のうちで、ホルモンの分泌量がもっとも安定し、体が活発に動くのは20歳ごろ。そこから、徐々にさまざまなホルモンの変化が生じ、中年期に差しかかるころには、「何となく不調」や「老化のきざし」が見え隠れするようになってきます。
・疲れやすい
・睡眠をとっても疲れが取れない
・食欲不振
・精力減退
・骨や筋肉の衰え
・体脂肪の増加
・薄毛やシワなど見た目の変化
・認知機能の低下
これら「老化」と呼ばれる症状は、ホルモンの分泌量変化と大きく関わっているのです。それにしても、20歳から老化が始まっていると聞くとショックを受ける人も少なくないはずです。しかし、ここにきて加齢に抗うホルモンの存在が明らかになってきたのです。
ホルモンの親玉DHEA
ホルモンには100種類以上が存在しますが、その親玉的存在として、研究者たちの関心を集めているホルモンがあります。それがDHEAです。
弊社スタッフも学会員である「日本抗加齢医学会」では、老化防止の最強アイテムとしてDHEAに大注目しています。
別名「長寿ホルモン」とも呼ばれるDHEAは、副腎から分泌され、免疫機能の維持やストレスに対する抵抗力、生活習慣病のリスク低減にも関わります。DHEAの血中濃度が高い人は長生きの傾向があることもわかっています。
また、DHEAは男性ホルモン・女性ホルモンの基になるほか、50種類以上のホルモン生成の材料になっています。
DHEAからつくられるホルモンは、そのすべてが健康の維持、性ホルモンの安定、老化防止などに関わる重要な働きをしているのです。「髪が増えた」「肌に潤いが戻った」「骨密度が上昇した」「悪玉コレステロールが減少した」など、加齢からくるさまざまな悩みにDHEAが影響を及ぼしています。
ただ、残念なことに、DHEAも加齢とともに減少することが明白で、平均して35歳以降の分泌量は急速な下り坂となります。50種類以上のホルモンをつくる源泉が枯れてしまうわけですから、さあ大変!感染症やがんの発症リスク、内臓や血管の老化、骨、筋肉、皮膚へのダメージなど、体への影響は甚大です。それらを軽減するためには、DHEAを「減らさない」、そして「増やす」ことが絶対条件です。
加齢により減少するDHEA
DHEAは胎児のときから体内での生成がスタートします。20~25歳ごろに生成量はピークに達します。そこから生成量は低下し、個人差はありますが、60歳ごろに最低値となるのが一般的です。
年齢とともに減少していくDHEA。その影響は、体のさまざまな部分に現れます。健康診断で「要注意」と診断されるような結果が出たりするなど、何となく感じる不調の多くもDHEAの分泌低下と関係があります。
免疫力の低下から、風邪をひきやすくなる、疲れがとれにくい、頑張りがきかなくなるなどの自覚症状も出始めます。DHEAが減少することで、ほかのホルモンの補填ができなくなり、全身症状として気だるさや眠気が続いたり、また人によってはうつ的な傾向が強く現れたりすることもあります。
老化を抑制するために必要なこと
できる限り若さを維持するためには適切なホルモン分泌が大切ということは、十分理解いただけたと思います。
そして、ホルモンの中でもDHEAは重要度が高く、DHEAの分泌が適切であれば、ほかのホルモンの低下を補って、実年齢以下に老化を抑えることができます。
老化防止のために、まずみなさんに考えていただきたいのは、DHEAを減らさないことです。
DHEAの分泌が減少する原因には遺伝的要素もありますが、生活習慣に左右される部分が大きいと考えられています。そのため、食事や睡眠などライフスタイルに少し気をつけるだけで、DHEAの分泌量減少を抑制できる可能性があるのです。
DHEAの分泌量を減らさない、そしてできれば今より増やすためにできることを紹介していきましょう。
「糖質オフ」は必要?
糖質の摂りすぎは老化を促進し、DHEAの分泌にも影響を与えます。
白米や小麦、そば、砂糖など、糖質の多い食品は、とり過ぎると疲労を感じやすくなったり、やる気が出なくなったり、脂肪の燃焼がしづらく太りやすくなります。
その理由は、過剰な糖質が成長ホルモンの分泌を抑制してしまうからです。成長ホルモンは筋肉や骨をつくる、免疫を高める、メンタルの正常化など、非常に重要な役割をしているホルモンですから、抑制されると体のあちこちに不調が現れるようになります。
玄米の力で老化を防止
糖質をついたくさん食べてしまう人は、白米から玄米に切りかえることもおすすめです。
玄米には、精製された白米と異なりファイトケミカルと食物繊維が豊富に含まれます。食物繊維は、腸内細菌を弱酸性に導く作用があり、これによって善玉菌が増えます。加えて、乳酸菌や酪酸菌といった良い菌も含まれていますので、ますます善玉菌優位の状態をつくってくれます。
玄米を適量食べるとDHEAの生成に役立つため、老化を抑制したいなら、玄米をぜひ試してほしいと思います。
DHEAを増やす最短の道
DHEAの増加には「運動」が欠かせません。
筋肉を鍛えることによってDHEA分泌量は増加します。
普段、まったく運動をしていない40歳の女性を20人集めて、フィットネスクラブの40分のクラスを週3回、2ヵ月続けてもらいました。
すると、DHEA分泌量が平均で約15~20%アップ。
運動の負荷や種類によって差が出るのかを調べるために、軽い筋トレを重点的に行うクラスと、ジョギングやウォーキングなどの有酸素運動を行うクラスに分けてみましたが、2ヶ月経過してもほとんど違いは現れませんでした。どうやら運動の種類は関係なく、継続に意味があるようです。
また、これまで運動習慣のなかった人ほど、DHEAの分泌量の増加は目立っていました。軽い運動でも良いので、最低でも週に2回は運動をするようにしましょう。
睡眠不足を解消せよ!
同じ睡眠時間をとっていても、就寝する時刻によって成長ホルモンの分泌に違いが生じます。成長ホルモンは、「成長期のみに必要なホルモン」だと勘違いされている人も多いのですが、一生涯必要な、そして非常に大切なホルモンです。
菌やウイルスから体を守る、筋肉を増やす、幸福感を高める、皮膚や毛髪の若々しさを保つなど、多幸感にあふれたパワフルな日常生活を送るためになくてはならない存在です。
成長ホルモンが枯渇すると、見た目年齢が明らかに衰えていきます。
男性でいえば筋肉が落ちる、皮膚が硬くなる、毛髪が減少するなどが当てはまります。
女性では髪のパサつき、肌の潤い消失、骨密度の低下などが顕著になります。
見た目年齢を維持するためには、成長ホルモンの正常な分泌が重要なのです。
その成長ホルモンを潤沢に分泌させるには、遅くとも午後11時までに入眠する必要があります。
寝具が合わなくて睡眠に不満がある人を対象に、快適な寝具に代えて睡眠の質を高めたときのホルモン分泌量の変化を観察しました。
その結果、睡眠の質が高まると、DHEA産出が増加することが示されました。
自身のDHEA産出を高めるために、そして歳をとってもDHEAを減らさないために「良質な睡眠をしっかりとること」はたいへん重要なのです。
ホルモン、特にDHEAが増加する習慣を心がけて、皆さまも今日から若返りを図りましょう。