子供のころ、夏休みになると毎年1ヶ月間を祖母の家で過ごしていました。
祖母は毎朝4時半に起きてドタバタと家事を始めます。
洗濯機のガラガラ回る音に耐えかねて「なんでそんなに早起きなの?」と聞く私に、祖母は「もう年寄りだからね」と大きな声で笑いながら答えました。
子供心に「年を取ると自然と早起きになるのか」と不思議だったことをよく覚えています。
睡眠について研究しているロンドン大学の心理学博士アリス・グレゴリーは、地域や世代によって睡眠の特徴や推奨される睡眠時間が異なると伝えています。
今回は、国や世代ごとに違う眠り方や理想の睡眠を中心にお伝えしていきます。
国によってちがう睡眠事情
まず思い浮かぶのは国や文化による寝具の違いです。
日本には「布団」という伝統的な寝具があります。布団は折りたたんで収納できるのが特徴です。一つの部屋を昼間は居間、夜は寝室として使用できるのがメリットです。
しかし、上げ下ろしの手間といったデメリットもあり、欧米化の進んだ現在は日本人の約6割がベッドで眠っていると言われています。
次に挙げられるのが、習慣の違いです。スペインやイタリア、ギリシャ、メキシコなどの国の一部には「シエスタ」という2~3時間程度の長い昼休みを取る地域があります。
ランチが一日のメインとなる食事のため家族でゆっくりと昼食を楽しみ、仮眠などの休息をとる習慣です。
シエスタのある地域では、お昼時に長い休憩を取るため帰宅時間は遅めです。それにともない、日本やアメリカをはじめとするシエスタのない地域よりも就寝時間が遅くなる傾向にあります。
睡眠時間の平均的な長さも国によって違います。アプリによる統計では、睡眠時間が最も長いのがオランダ人、最も短いのはシンガポール人と報告されています。
また別に行われた調査によると、私たち日本人の睡眠満足度は世界最低レベルという結果に…。睡眠に最も満足しているのはインド人だそうです。
「夜型の若者と朝型の高齢者」には理由がある
睡眠時間の長さや眠りにつくタイミングは、赤ちゃんから成長する過程においてはもちろん、成人になってからもさまざまに変化していきます。
その中でも興味深いのが、青少年期(13歳~25歳)と高齢者(65歳以上)との睡眠の違いです。
典型的なパターンでは、青少年期は就寝時間が遅くなり早起きがつらくなります。一方で、高齢者は夜更かしがつらく朝早く目覚めます。
このような世代間の睡眠時間について説明している「よく眠れない祖父母」というおもしろい仮説を紹介しましょう。タンザニアに住む狩猟採集民族「ハッザ族」の睡眠パターンを調べた結果に基づいて、この仮説は立てられています。
通常30人前後の集団で暮らしているハッザ族の有志に腕時計型の活動記録計を着用してもらい約20日の睡眠パターンを追跡。このときの調査では、20日間の間に全員が眠っていたのはたったの18分だけでした。つまり、常にだれかが起きていて周囲に目を配っていたのです。
ほかの哺乳類をみても若い世代は他の世代と比べて夜更かしの傾向があると分かっています。世代ごとに睡眠時間が異なるのは、私たち先祖が培ってきてた生き残るための知恵だったのかもしれません。
社会的時差ボケの弊害
前項の仮説のように青少年の夜型生活が進化の過程によるものだったとしても、社会生活ではタイムラグが生まれます。
このタイムラグで体内時計と外界が同調できなくなる「社会的時差ボケ」は大きな問題です。
学生は通学のために朝早く起きなければなりません。早い時間に寝る必要がありますが、若者には夜中までやるべきことが山積みです。宿題やアルバイトをこなし、話題に乗り遅れないようにSNSのチェックも欠かせません。
こうして週末は、1週間分の睡眠不足を取り戻そうと昼頃まで眠ることに…。しかし、この週末の朝寝坊が体内時計を遅らせる原因です。
体内時計が遅れると飛行機で日付変更線をまたいだかのような「時差ボケ」状態が起こります。時差ボケがやっと治った頃には、また次の週末が来て、また体内時計がズレてしまうのです。
「社会的時差ボケ」と関連性を指摘されているリスクは、ほかにもさまざまです。
喫煙や飲酒、抑うつとの関連性や、社会的時差ボケが大きい人ほど肥満と代謝機能不全があるという結果もあります。
この問題を解決するためにアリス・グレゴリーが勧めているのが「週末は平日よりも最大2時間遅く起きる」という睡眠方法です。2時間程度の朝寝坊なら、社会的時差ボケを抑えつつ睡眠不足の解消も期待できます。
世代別に見る理想の睡眠時間と特徴
世代別の理想的な睡眠時間や睡眠の特徴について、次の表にまとめてみました。
人生のステージで睡眠時間も眠り方もかなり違うことが分かりますね。
みなさまご自身や身の回りの方々はいかがでしょうか。
世代 | 理想の睡眠時間 | 睡眠の特徴 |
乳児(生後4~12ヶ月) | 12~16時間 | 生後2~3ヶ月の赤ちゃんは一晩に2回程度起きます。夜中に睡眠が集中するようになるのは、体内時計が発達してくる生後6カ月ごろです。 |
幼児(1~2歳) | 11~14時間 | 一晩に1度は起きる時期です。睡眠前のルーティーンがあるほうが、ルーティーンなしと比べて寝かしつけやすいという研究結果があります。 |
園児(3~5歳) | 10~13時間 | アデノイドや扁桃腺が最も肥大しやすい時期で、いびきが出るこどももいます。ほかの原因もあるので、成長しても続くようであれば、受診がおすすめです。 |
小学生(6~12歳) | 9~12時間 | 13歳未満でよくみられるのが「夜尿症」です。成長速度や睡眠の深さなど、さまざまな原因があります。ひとつの目安として5歳を過ぎてもおねしょが多いようであれば、医療機関への相談を検討しましょう。 |
ティーンエイジャー (13~18歳) |
10~13時間 | 眠くなるのは12時間~14時間後ですが、生理的に社会と睡眠のリズムを合わせるのが大変な時期。就寝時間を徐々に早く改善していけば、睡眠不足のリスクも減り精神的にも安定します。 |
若年成人(18~25歳) | 7~9時間 | 眠さを感じるのは、起きてからたいてい16時間以降に変化。一度夜型になった睡眠パターンは、20歳前後で元に戻ると言われています。 |
成人(26~64歳) | 7~9時間 | 仕事や子育てなどに追われ、忙しさは睡眠にも影響します。不眠症や睡眠時無呼吸症候群など深刻なトラブルもありますので、忙しいからと放置せず対応を心がけましょう。 |
高齢者(65歳以上) | 7~8時間 | 加齢によって睡眠に問題を感じる人が増加。寿命は寝つきの悪さや夜間目を覚ましている長さと関係しているという統計があります。「日中は体を動かす」「極力昼寝しない」など、よく眠るための習慣を取り入れるのもおすすめです。 |
睡眠にとらわれずにリラックスして過ごそう
今回は、国や文化、年代などによる睡眠の違いについてお伝えしてきましたが、人それぞれ睡眠は千差万別です。
知り合いから聞いた話ですが、スマートウオッチで睡眠の質を確認し始めたら「明日はもっとよく眠ろう」とやっきになったそうです。それが逆にストレスとなり、彼はよく眠れなくなってしまいました。
「健康のためにしっかり眠らなきゃ」と、テレビ通販でおすすめの枕や寝具についつい散財してしまうという方もいるのでは。
もちろんよい商品も数多くあるかと思いますが、まずは睡眠にとらわれすぎないことも大切です。
よく眠るためには「これをやらなきゃ」とか「これを使わなきゃ」などのルールはありません。
寝床では、リラックスして楽しい思い出を考え、おおらかな気持ちで過ごしてみましょう。
こんにちは、健康管理士・腸内環境管理士の中谷です。三姉妹の母で、毎日にぎやかに過ごしています。楽しみは美味しいお酒と観葉植物を育てること。美酒を作る発酵の力と、植物が持つ癒しのパワーを日々実感中です。植物で大切なのは根っこですが、人間にとっての根っこは腸。腸にまつわるお話や、健やかに過ごすヒントなどをお届けします。ぜひ、ご一読いただければ幸いです。