寒さが厳しい冬三ヶ月を、五行説では『閉蔵(へいぞう)』といいます。
万物が静に沈み、消極的になるときです。すべてが閉塞的になるので、いたずらに体力を消耗してはならないとされています。
冬は寒気が体内に侵入し、寒邪となっていろいろなトラブルを引き起こします。寒邪の侵入によって体が冷やされると、風邪、関節の痛み、手足の冷えなどが現れます。また寒さで身体の機能が低下し、腹痛や下痢、食欲不振のほか、動悸や息切れなどの症状もみられます。
働きが衰えた先にかかる病気
この時期の重要な働きをするのが『腎』です。
腎は生命を維持するエネルギー源『精』を蓄えている器官なので、腎の働きが活発であれば生命力も強くなり、元気に冬を過ごすことができます。腎は泌尿器官や生殖器も含まれます。関連深い病気として、排尿障害、夜尿症、むくみ、更年期障害、インポテンツなどです。また耳や骨とも深く結びついていて、耳鳴りや難聴、骨粗鬆症なども起きやすくなります。
どうやって腎を補う?
生活習慣はもちろんですが、仕事上不規則になってしまう方もいるでしょう。
薬膳で腎を補う五味は『鹹味』です。塩から味の食べもので、食塩・味噌・醤油をはじめ、海藻・小魚などのミネラルの多い食べ物を積極的に摂りましょう。
これらの食べものは、腎臓・膀胱など泌尿器の働きを補い、骨を丈夫に保ち、肝臓の働きを活発にします。呼吸器や大腸の働きを助け、脾臓と胃に有益に働くのです。
しかし近年では、むくみ防止といって若い方も塩分の減量をはかっている人がいるようです。高血圧治療をしている方は一日6g未満に抑えるようすすめられていますが、そうでない人も減塩を心がける人も多く、日本人の摂取量は次第に減っているようです。
食養学者で農学博士の川島四郎先生は、ご著書の中で次のように述べられています。
『塩分のとりすぎは高血圧や心臓病にはよくないことは確かですが、これはあくまでも摂りすぎの問題です。減らせば減らすほどよいという風潮がありますが、そうではありません』
塩分は細胞を正常に保つために欠かせません。細胞膜の内部にはカリウム、膜の外側にはナトリウムが含まれています。両者のバランスが保たれているとき、はじめて細胞は生き生きと機能することができます。
ですから、カリウムの摂取量に見合うだけ塩分でナトリウムを摂取し、バランスをとらなければならないのです。
日本人は欧米人に比べて野菜をたくさん食べるので、カリウムの摂取量が多いことを忘れてはなりません。
腎と老化を助けるネバネバ食品
フカヒレやツバメの巣などは高級な中国料理として有名ですが、中国ではこれらの食品は健康維持・老化予防の長寿食として珍重されてきました。これらの食べものに共通しているのが『ネバネバ物質で有名な『ムチン』です。いったいムチンのなにがいいのでしょう?
ムチン(食物繊維)は血中コレステロール値を下げ、糖の吸収を抑えて糖尿病を予防します。また、腸内の善玉菌を増やして便秘の予防にも役立ちます。
ネバネバ食品に含まれるコンドロイチン硫酸は、関節や軟骨を保護し、肌のみずみずしさを保つ効果があります。
コンドロイチン硫酸は、高齢になると体内で作られにくくなるのでネバネバ食品から上手に摂るようにしましょう。
長いもの梅肉和え
長いもは皮を剥いて短冊切りにします。梅干のタネをのぞいて梅肉を包丁で叩いてペースト状にし、ハチミツ(なければキビ砂糖)、薄口醤油少々を加えて混ぜ、だし汁(または水)少々で伸ばして長いもを和えます。
人体で一番大切な臓器は肝と腎で、それを補う食味が酸味と鹹味です。『塩梅』とは、酢と塩で加減よく味付けすることをいいますが、体調を現わすのにも『塩梅が良い・悪い』というふうに現しますよね。なにごとも、いい塩梅で今年も過ごしていきましょう。
「東京薬膳研究所」代表。本場中国で薬膳を学び、帰国後は日本の気候風土に合った薬膳理論を研究。和食薬膳・食養研究の第一人者である。『食は薬なり』を全国へ広めるため、執筆活動のかたわら各地で講演を行い活躍中。著書に『決定版 和の薬膳食材手帖』『旬を食べる和食薬膳のすすめ』(すべて家の光協会)などがある。