早いもので、新年を迎えるまで2週間をきりましたね。
江戸時代では年間行事のひとつとして、12月13日に『煤払い(すすばらい)』をする風習がありました。
いまでいう大掃除です。
照明として使っていた行灯(あんどん)からでた燃えカスがほこりと一緒になったのが煤汚れ。
たくさんの福を授かりますようにと願いを込めて、一年の汚れを12月13日に清めていたそうです。現代では、寺院などで煤払い行事として行っています。
家族の掛け声や窓の高いところを背伸びして拭く子供の姿は、日本の年末の風物詩ですね。
重箱に秘めた作り手の思い
新年を迎えるためにする年末の準備といえば、おせち料理作りです。五節句にいただく食事のひとつであるおせち料理は、平安時代に宮中で行われていた「お節供」の行事に由来しています。
おせち料理は、おめでたいことを重ねるという願いを込めて、重箱に詰めていきます。
重箱は基本四段重ねで、上から順に「一の重」「二の重」「三の重」「与の重」と呼びます。四段目のお重を「四の重」と呼ばないのは四が死を連想させ、縁起が悪いとされているからです。
五節句で身体の健康管理
お重に詰められる料理にはそれぞれ深い意味が込められています。
お正月は五穀豊穣を司る年神様をお迎えし、新年の幸福を授けていただく行事です。そしておせち料理は五穀豊穣、家族の安全と健康、子孫繁栄の祈りを込めた、海の幸・山の幸を豊富に盛り込むのです。
次に、薬膳からおせち料理を観察してみましょう。
おせちに登場する料理の組み合わせは、五味のバランスがとれた素晴らしい健康食だということが分かります。
私たちの祖先は健康を維持し、予防するために年中行事という形で健康管理をスケジュール化したといいます。それが五節句です。五節句の食べものや飲み物は、すべて薬であるという考えのもと、それを「縁起が良い」や「魔除けになる」という言い方で習慣化していったといわれています。
人は元気だと、なかなか自分の健康には気を配らないもの。そのため病気を見過ごしがちです。手遅れにならないよう、今日では定期的に健康診断を受けることが習慣になっています。
古代人にとっては病気になってから健康をとりもどすことは容易ではありませんでした。そこで私たちの先祖は、薬を食品化することで日常の食餌療法を行い、農耕スケジュールに合わせて年中行事化し、魔除けや信仰として摂取することで健康管理を行っていたようです。
正月には無病長寿を願って…
年はじめには『お屠蘇(おとそ)』をいただきます。
お屠蘇を飲むというと、現代では単に日本酒を飲むことを想像しますが、本来はお酒に数種類の生薬を入れて飲む薬酒のことをいいます。屠蘇散の処方は書物によって違いますが、一般的にはオケラの根・サンショウの実・ボウフウの根・キキョウの根・ニッケイの樹皮・ミカンの皮など、身体を温めたり、胃腸の働きを助けたり、風邪の予防に効果的といわれる生薬を含んでいます。
もともと、薬のトリカブトの根や下剤の大黄なども加えていたようですが、現在では激しい作用の生薬は含まれていません。
おせちとお屠蘇の組み合わせ
屠蘇散は辛味と苦味の組み合わせです。気分を晴らす辛味と、利便・利尿作用のある苦味で構成されています。おせちは身体を滋養する甘味の食べものや料理が中心です。解毒を促す酢の物などの酸味や、老化を防ぎ元気をつける鹹味の食べものもありますが、苦味と辛味がやや不足しがち。その不足分を補っているのがお屠蘇なのです。
おせちとお屠蘇、ともにいただくことで身体のバランスが整い、健康が守られています。
日々寒さが増していきます。寒邪(かんじゃ)は無断で侵入します。身体の気をしっかり締めて健やかな新春をお過ごしください。
「東京薬膳研究所」代表。本場中国で薬膳を学び、帰国後は日本の気候風土に合った薬膳理論を研究。和食薬膳・食養研究の第一人者である。『食は薬なり』を全国へ広めるため、執筆活動のかたわら各地で講演を行い活躍中。著書に『決定版 和の薬膳食材手帖』『旬を食べる和食薬膳のすすめ』(すべて家の光協会)などがある。