夏から冬への過渡期となる秋の大敵はなんといっても大気の乾燥。
乾いた空気を吸い込む鼻、のど、肺などが乾燥し、くしゃみ、咳、喘息の悪化といった気管支トラブルが多発します。五穀豊穣の恵で体を滋養し、体を潤すことが大切になっていきます。
中医薬学によると、秋の呼吸器系の症状は大気の乾燥がもたらす【燥邪】によるものであり、皮膚や毛髪はカサカサに、のどは潤いを失い、口は乾き、尿量が減って便は固くなるなど、体内の水分不足によるさまざまな不調を招きます。
秋の食養生は、カラカラの空気から肺や呼吸器を守るため、体液を補って体を潤す食材をとるようにしましょう。
旬の果実や野菜類などを取り入れると、季節のトラブルを防ぐことができます。
里芋
里芋などの辛味の食材は、汗や不要な物質を排出する発散作用に優れ、気や血のめぐりもよくしてくれます。
やまいもは山野に自生する山の芋であり、さといもは人里で栽培される里の芋です。ほとんどの芋類は甘味ですが、唯一、辛味に属し、滞った気の巡りをよくして気持ちを落ち着け、便通を良くして肌にうるおいを与えるといった辛味の薬効をもちます。
【里芋の昆布煮】
里芋は皮を剥いて乱切りにし、鍋に切った昆布と交互において、ひたひたに出汁を加えて弱火で煮る。里芋が煮えたら酒としょうゆを少々加えて更に煮れば完成。
ぎんなん
強い生命力を宿す木の実は古くから知られる強壮剤です。
10~11月に旬を迎えるぎんなんは、虫に食べられることもなく、火災にあって黒焦げになっても春には再び青々とした新芽をつけるといわれています。
その薬効は高く、古くから漢方薬としても利用されています。
空気が乾燥する季節に採れるぎんなんには、肺の熱をとって潤し、慢性の気管支炎などを鎮める薬効があります。現代栄養学では、豊富なカリウムがナトリウムを排出して高血圧を予防、特有成分ギンコライドが血栓を防ぐこともわかっています。
昔から食べ過ぎると鼻血が出たり、子供はひきつけを起こすといわれています。
大人は10粒、子供は5粒にとどめましょう。欲張りは禁物です。
【海老とぎんなんの炒め物】
しょうがとにんにくのみじん切りをごま油でいためて香りを出し、酒と塩で下味をつけた海老とぎんなんを加えて炒め、最後にしょうゆを回しかける。
「東京薬膳研究所」代表。本場中国で薬膳を学び、帰国後は日本の気候風土に合った薬膳理論を研究。和食薬膳・食養研究の第一人者である。『食は薬なり』を全国へ広めるため、執筆活動のかたわら各地で講演を行い活躍中。著書に『決定版 和の薬膳食材手帖』『旬を食べる和食薬膳のすすめ』(すべて家の光協会)などがある。