旧暦では、一年のはじまりは立春からと考えられていました。春は自然界の陽気が高まり、すべてのものが活動的になる季節。人体も同じで、心身共に活動力のみなぎる時期です。冬の間、体内にこもっていた熱気を発散させ、新陳代謝を活発にします。その働きを体の内から助けるのが肝臓。春は肝臓に大きな負担がかかる季節でもあります。そのため、春は頭痛、めまい、目の充血、頭がボーっとする、不眠、うつ、精神不安などの症状が現れやすくなります。
東洋医学では、『春の病は肝にあり、頭にあり・・・』(素問)といわれています。東洋医学での【肝】の働きには、血液の解毒に加えて気血の調整(気のめぐりを整える)と血液を蓄える働きがあります。
血液と関わりの深い肝の働きが高ぶると、前述のように頭に血がのぼって、イライラ・怒りっぽい・のぼせ・ほてり・不眠や精神不安の状態が起こります。
肝は血液を解毒する器官ですが、春は肝に過剰に負担がかかるため、血液を解毒しきれずに古い血液が体内にたまります。そうなると血液全体の活動が失われ、細胞の新陳代謝が悪くなり、血行不良や皮膚にアザやシミ、湿疹、吹き出物ができやすくなるのです。女性では生理周期が狂いやすくもなります。
肝は沈黙の臓器
肝臓は体で一番大きな臓器です。多少の障害くらいではビクともしません。そのため、肝炎で少しくらい肝臓が硬くなっても痛みが現れないため『沈黙の臓器』といわれているのです。
それでは、肝が病むとどんな症状が現れるのでしょうか。
【皮膚】
・皮膚に潤いがなくなり、カサカサに。肝は血液を貯えて全身に回しているが、血液が少なくなると皮膚に十分に回らなくなり、皮膚が栄養失調にかかって艶やハリが失われる。
【手・足】
・両手足が熱くほてってくる。そのため、なかなか寝付けないといった状態が起きてくる。
【目】
・目が疲れる、痛い、赤くなるなど。朝起きて鏡で目を見ると、充血しているなど。
【精神面】
・精神が落ち着かず、イライラして夜もろくに眠れないなどの症状が起きてくる。
肝虚を改善、気を整える
肝の機能低下(肝虚)を改善し、気の巡りを整えて、脾胃・心臓を養うことが大切です。肝は血の貯蔵庫と考えられ、活動しているときには必要に応じて血を送り出し、睡眠時には肝に集めて貯えるという働きをしています。栄養不足やストレスなどで肝の働きが悪くなると、血を貯蔵したり、調整する働きも低下してしまいます。その結果、血液不足になり、血液の調節ができなくなって、めまい・生理不順・鼻血などが起こったりします。
養生は、血液の不足を補い、気の巡りをよくして肝の働きを助けるのです。
肝の機能を補う『酸味』
酸味は気や血のめぐりと関係の深い【肝】に作用します。イライラしやすいときのリラックス作用や、疲労回復効果にも優れ、疲れたときのリフレッシュに役立ちます。レモン、梅干し、酢の物などの酸味を食事のときに必ず食べる習慣が、肝の疲れを癒します。わたしがおすすめなのは、いろいろな食材を一度に漬けて食べることのできるピクルスです。季節に合わせた野菜を使用すると、なお良しです。
▼肝を助けて疲れもふっ飛ぶ▼
春の肝臓サポートピクルス
【材料】(約1ℓ分)
☆ピクルス液☆
水 1リットル
ワインビネガー 1カップ
塩 小さじ1
砂糖 大さじ5
ローリエ 2枚
唐辛子 1本
フェンネル 5g
クローブ 3本
黒こしょう 30粒
オールスパイス 3個
好みの野菜(春かぶ、セロリ、春キャベツ、新玉ねぎ、新ゴボウなど)
【作り方】
①用意した野菜を好みの大きさに切りそろえておきます。ゴボウやアスパラ、ブロッコリーなどは軽く下茹でし、水気をしっかりと切っておきましょう。
②鍋にピクルス液の材料をすべていれて煮立たせたら火を止め、冷ましておきましょう。
③煮沸消毒した容器に①の野菜を詰め、冷ましたピクルス液を注ぎ入れます。しっかりと蓋をして冷蔵庫で漬け込みましょう。翌日~翌々日から食べられます。
「東京薬膳研究所」代表。本場中国で薬膳を学び、帰国後は日本の気候風土に合った薬膳理論を研究。和食薬膳・食養研究の第一人者である。『食は薬なり』を全国へ広めるため、執筆活動のかたわら各地で講演を行い活躍中。著書に『決定版 和の薬膳食材手帖』『旬を食べる和食薬膳のすすめ』(すべて家の光協会)などがある。